2019年度日本建築学会設計競技 全国入選/佳作
歴史的空間再編コンペティション2019 3位/模型賞
2020第7回都市・まちづくりコンクール 50選

2019.07

 食寝分離論以降、変わらず作り続けられてきた団地。ライフスタイルの多様化が進む現在において、そうした団地の画一的な計画は生活を窮屈にするものでしかなくなっている。 現在の団地が抱える窮屈さを解消する為、食寝分離以前の転用論が持っていた生活のフレキシブル性に着目し、世帯合や職住融合といった 様々な融合を内包した、多様な団地生活のあり方を提案する。


 かつての日本住宅では畳の上で食事や就寝、さらには冠婚などの地域の行事ごとまで行われており、場面ごとに柔軟に用途が変化するマルチスペースとして存在していた。これまでの殺風景な共用部の共用部に変えることで、フレキシブルな使い方のできる共用部とする。


拡張された共用部にはオフィスや託児所、カフェなどの都市機能を挿入し、かつての共同体が持っていた地域コミュニティを団地内に復活させ、高齢者シングルマザー、学生など社会的弱者と呼ばれる住民が増加した団地において、相互の関係性を生み出すきっかけとなる。

この団地には一人の力で生活を送っていくのが少し困難な人たちが多く住んでいます。

この団地に住む、シングルマザーの家族について見てみましょう。

この家族は、シングルマザーのお母さんと小学生の息子、2歳になる娘の3人家族です。

朝、小学生の息子を小学校へ見送ったあと、お母さんは娘を団地の中にある託児所に預けます。

そこでは、団地に住むおじいちゃんおばあちゃんが子どもたちの面倒を見てくれます。

娘を預けたお母さんは、隣りにあるシェアオフィススペースで在宅ワークを行います。

オフィスの窓から娘の様子を片目に仕事することができます。

夕方になると息子が学校から帰ってきます。

1階の共同玄関では「ただいま!」と大きな声で挨拶しながら靴を脱ぎ、4階の寺子屋まで裸足で畳の上を駆け上がっていきます。

寺子屋につくと、そこでは団地に住む小学生たちが集まり、大学生に勉強を教えてもらいます。

そして、日が暮れると夕食の時間です。

夕食は家族だけでなく、託児所でお世話になっているおじいちゃんおばあちゃんや、勉強を教えてくれる大学生、またお隣さんなども呼んでみんなで食卓を囲みます。

6畳の小さな和室は、襖を開き、共用部の畳スペースをつなげることで大きなダイニングへと変わります。

このようにして、それぞれの足りないもの同士を補い合う関係を作り出すことで、一つの大きな家族のような団地になるのではないでしょうか。